「スクラップ・アンド・ビルド」を読んで ~若さ故の「優しさ」という狂気~ [My Favorites]
テレビでその強烈なキャラクターが話題になった羽田圭介氏だが、
それくらいの個性や感性がないと、こんな作品は書けないのではないだろうか。
「空白」の中でもがく者だからこそ抱く、
他人からしたら無駄とも思える過敏な心の動きを丁寧に描いている。
無職となり母親に養ってもらいながら祖父の面倒を看るという、
社会的には非生産的な立ち位置の青年が主人公。
何もしない。何もできない。今の自分では太刀打ちできない。そんな時間が延々と続く。
その時若者の脳はフル回転し、
これまで見向きもしなかったあらゆるものに矛盾を感じ、疑問で渦巻く。
その一つが、静寂を切り裂く小さな物音の主、祖父の存在だった。
要介護者である祖父と真剣に向き合い始めたことで、
彼は静かに決意する。
真綿で首を締め続けられて生きながらえさせられている祖父を楽にしてあげたいという、
「優しさ」という狂気の沙汰を実行に移すことを。
主人公が自分自身にインプットする時の表現と、アウトプットする時の表現との差異が面白い。
自らインプットする時の文章は、
若いからこその敏感な五感が存分に発揮され、暑苦しいくらいの勢いがある。
一方で思いを吐き出す時の表現は、余りにもそっけない。
だがその淡々とした言葉は、
現状に対するやり場のない苛立ちが行きついた先の結果として出たものだと分かる。
不必要なものまで脳に入り込んでくる青年と、彼の策略に徐々に嵌り思考が衰えていく祖父。
それぞれの葛藤がとにかく丁寧に描かれている。
介護という重い話を取り扱っているので、最後まで重い空気は拭えない。
だがむしろそれがリアリティーを高めていて、言葉に無理がない。
個人的には、努めてドライに振る舞おうとしていた主人公が
付き合っている彼女に思わず投げかけた、ウェットな一言がグサリと刺さった。
人間誰しもが主観的な感情を抱き、誰かに頼りたいと願っているのだ。
重なる経験が多過ぎるボクにとって、
この作品は手に入れて以来、手にすることを正直躊躇っていた。
忙しかったこともあったが、意識的に遠ざけていた。
そして今日、ようやく手にして一気に読み上げた。
120ページ前後の割と短めの作品であり、難しい表現もそこまで使われておらず読みやすい。
同じ芥川賞受賞作「火花」とは種類が異なるが、取っつきやすい作品だと思う。
こんな感性を持つ他の彼の作品も、読みたくなってきた。
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