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ノンフィクション・ショートショート 幸福論 ~ JR岸辺駅(大阪府吹田市) [街小説]

少し眩しい陽が射しこむ、JRの高槻行き普通電車に
僕は揺られながら、「神様のカルテ」を読んでいた。
眼が潤んでしまうのは、物語のせいなのだろうか、
それともこの旅の終わりが近づいているからなのだろうか・・・。


2015-05-31 17.34.12.jpg
14時10分。JR岸辺駅に到着。
予定時刻より少し遅れたけれど、事前にメールで連絡しておいたから、なんとかなっているはず。

そして、これまた立派な駅ビルになっていた駅の自動改札の向こうに、
とても素敵な、若いお父さんとちっちゃなボクとが、待っていてくれた。

相米さんも、大学の先輩。
専攻学科は違うけれど、同じラジオDJ活動をしていて、
プライベートでも、今に至るまでずっと仲良くさせていただいている。
こちらも性格は全く異なって、行動は大胆だが用意は周到という、とても頭のいい人だ。
田舎者の僕をとにかくいじってくれて、
僕もまた、失礼な言葉で散々いじったんだけれど、
度量の大きい彼は、いつも素直にボケたりして、しっかりと受け止めてくれた。

最近マイホームを購入されたのことで、
ご実家には何度もお邪魔したことはあるけれど、こちらは初の訪問となる。
一緒にいた男の子は、長男の彩斗くん。
とても人見知りらしいんだけど、僕には何故だか、逢った途端に慣れてくれて、
キャッキャと喜んで、じゃれてくれた。


相米さんのお宅があるのは、駅の北側。
駅前は更地になっていた。
この駅北には、元々吹田操車場(のちの信号場)があった。
なんでも、大病院や医療研究機関、マンション兼大型ショッピング施設が建設予定なのだそうだ。

ボクがJR西日本子会社のベンダー会社でドリンク補充のアルバイトをしていた際に、
ここも配達担当駅の一つだったので、
駅を含めて、この駅北の風景がここまで変わってしまうとは、思いもしなかった。


さて、先輩のお宅までは、駅から10分程度の道程。
ずっとゴキゲンな彩斗くんに、自然と笑顔がこぼれている自分に気付きつつ、
先輩との会話を弾ませていたら、あっという間に到着。

一目で分かる、とっても気立てのいい奥さまと、
とっても元気いっぱいな、長女の桜花ちゃんが、出迎えてくれた。

リビングに通していただいたら、
幼い子供さんがいるお家にしては、とっても綺麗に片付けてあって、びっくりした。
何でも、子供自身が自分で片付けるように、ちゃんと教えているのだそうだ。


さて、とキャリーバッグから、お土産をたんまり取り出す。
元々お泊りをお願いしていたので、他の友達よりもたくさん準備していた。
直前に先輩の仕事が忙しくなって、時間が取れなくなったので、断念したんだけど。

トラさん模様のちっちゃくて柔らかいサッカーボールと、
これまたしまねっこのコップ。
で、先輩が大好きな「島根の吉田くん」グッズ、
ラベルが吉田くんの岩のりの佃煮と、吉田くんの47都道府県自虐ゴミ袋。
もちろん平田の生姜糖も。
生姜糖を炭酸水に溶かせば、天然のジンジャーエールが出来上がることを教えてあげたら、
先輩も奥さまも結構食いついてくれた。
実は奥さまのご両親の実家は鳥取市。
スターバックスとかの話題もあって、結構お話も盛り上がった。


さて、これからはもう、おなじみのなんちゃって保育士に大変身。
子供たちの底知れぬパワーと対決するには、本当にエネルギーが要る。
ご両親は手慣れたもので、適度に付き合っては、適度に放っておられたんだけど、
そこはたまにくるおっちゃん。精一杯頑張って付き合いますよ。

ボールは蹴りまくる投げまくる。
ミニカーを走らせれば、彩斗くんはその動かし方に見入ってしまう。
スタンドマイクのおもちゃをお姉ちゃんが持ってきたら、
二人、いや僕も含めて三人で取り合って歌いまくるし、
あれこれとおもちゃを持ってきては、一緒に遊ぼうっていうから、本気でやっちゃうし、
ちょっとゴロっとなったら、一緒にゴロってしてお話してみたり。

「お前、2歳児だろ。」

相米さんがそう言った。
子供に、同じ子供として扱われているってこと。
確かに、身体は41で、心は全然成長できてないから、子供のまんまなんだろうな。

そんなことはさすがにおっさん。
20分程度で息切れしてしまうので、
奥さまに出していただいたアイスコーヒーなどをいただきながら休憩したり、
喫煙スペースのちっちゃいベランダで、ご近所にご迷惑がかからないように、
先輩と静かに語らった。


太陽が明るく照らすその場所に、青いFitはあった。

「このスペースじゃ、あんまりでかい車は停められんやろ。
 トランクが思ったより広いし、子供も乗せやすいから、これにした。
 あ、ハイブリットちゃうよ。ガソリン車。
 故障した時に、ハイブリッドはまだ技術がしっかりできてへんからな。
 それに、ガソリン車のほうが、走りもいいし。」

さすが相米さん。眼力は確かだ。
そういえば、昔から相米さんに憧れていた僕は、
彼に影響を受けて、父親に大反対されていたバイクに乗り始めたんだったっけ。

そして、お互いの近況はもちろん、
出発前に受けた会社の面接状況や就職活動のことに、ボクの病気の状況、
共通の友達である、昨日泊めていただいた先輩の現状や、
彼の同級生でボクの先輩である友達の、病気の状態など、
最近彼らに逢っていない彼に、ボクの言葉で、ボクの感じたままに、素直に話した。

「そうやなぁ・・・なかなかうまくいかんもんやな・・・。」

自分自身が落ち着いた環境にいないと、
冷静に人のこと、特に友達といった近しい存在のことを、
客観的に見ることは、とても難しい。
それだけ、先輩は今の生活が充実しているっていう証拠なんだろう。

「でも、うまく受かるといいな。」

僕の就職活動に対して、そう言ってもらえた。
昨年の12月、介護職と病気で心身共に疲れ切っていた頃に、
夜の松江で一杯を共にして、相米さんには精一杯元気づけてもらった。
その時の僕を知っているから、短いながらも、気遣ってくれたことが、嬉しかった。


17時近くになって「おかあさんといっしょ」が始まった。
食い入るようにテレビを見つめる子供達。
彩斗くんは僕の膝の上にやってきた。
そしていつの間にか、遊び疲れちゃったのか、膝の上でおねむ・・・。

いいなぁ。こんな家族、作りたいな。
自由気ままな独身生活の幸せも、当然あるのだけれど、
自分の家族を作って、奥さんや子供達と将来を築いていく楽しみや喜びもある。
これは今の僕には、絶対にない幸せだ。

人それぞれの幸せが、それぞれにあるけれど、
僕にとっての理想に近い家族像が、ここにはあった。
結婚したいな。子供が欲しいな。
大変さや苦しさも当然あるだろうけど、こんな家族を、いつか築いてみたいな。
穏やかで、楽しくて、嬉しくて、時に厳しくて・・・そんな家族が、欲しいな。


もう17時半。
今度は桜花ちゃんが、僕を駅まで送ってくれるみたいだ。
彩斗くんと奥さまと、笑顔で別れて、
先輩と桜花ちゃんと、駅まで向かった。

穏やかなオレンジの夕陽が綺麗だ。
幸せな気持ちになったから、余計にそう思えたのかも知れない。
でも、やっぱりまだここにいたい。
僕の心は、そんな夕日の中で、実はちょっとぐずっていた。

桜花ちゃんには「はらぼーさん」って呼んでもらえるように、名前を教えた。
「はらぼーさん、また一緒に遊ぼうね。」
後ろ髪をひかれる思いを精一杯押し殺して、笑顔でうん、って頷いて、改札を通った。
振り返って目に入った笑顔の二人が、とっても眩しく見えた。


キャリーバッグはほとんど空っぽになって、
手持ちの黒革のボストンバッグを押し込んだ。
さぁ、今日の最終イベント、大阪駅に向かおうか。
不思議と、ここに来るまでに感じていた、一抹の寂寥感はなかった。
またきっと来るだろうな、来たくなるんだろうな。
そんな将来への期待が、僕をそうさせた。


1週間後の日曜の夜。
相米さんから携帯に電話。
なんでも、桜花ちゃんが「はらぼーさんとお話がしたい」って言ってきかなかったらしい。
ちょっとだけお話して、とっても嬉しい気持ちになった。
いつか大人になって、忘れてしまうのかも知れないけれど、
一瞬でも、そんな風に楽しさの中に僕という存在を残してくれるなんて、とっても幸せだ。

5月31日日曜日 17時40分。
残り時間は、あと14時間20分。
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