「火花」を読んで [My Favorites]
一気に読み終わった。
純粋に、爽快な気分になった。
二人の芸人を軸に、物語は進む。
どちらも自分に正直な人間だが、
主人公は現実を直視し、自分自身の価値について悩み続ける人間であるのに対し、
主人公が憧れる先輩芸人は、現実に抗い、自分自身を貫き通す。
作者が芸人であるためかも知れないが、
内容は、ノンフィクションに限りなく近いフィクションである。
このタイトルが、
軸となるこの二人の間の関係性を指しているとも言えるし、
主人公や先輩芸人と、相対する人間との、
それぞれの一対一の関係性を示しているとも思える。
そして、キーとなる「打ち上げ花火」そのものなのかも知れない。
それら全てに当てはまるのかどうかは、読む人それぞれで感じるほうがよいと思う。
夢を追うこと。現実を生きること。
そのために何をすべきか。何が正しいのか間違っているのか。
そういった人生の永遠の課題を、
説教じみた押しつけ的ではない言語で、読者自身に自然と考えさせてくれる内容だ。
それにしても、
芥川賞候補となったというイメージで、
「もしかしてとても難解な表現で書かれているのかも」と、恐る恐る買ってみたのだが、
完全な杞憂に終わった。
ごくたまに難しい単語は確かに出てくるが、
文字面で大体の意味は想像できるものであり、とても読みやすい。
ドラマティックな出来事が続々と出てくるものの、
あくまでもそこは淡々と、感情の起伏の激しさを抑えた表現で書かれている。
一方で背景描写や人物描写は、読む者の頭に浮かびやすい、
くどすぎずもなく、明確な表現で書かれている。
ボクのように、小説を殆ど読まないような人間にとっても、
共感できたり理解できたりしやすい内容であり、
一方で読書家の方々にとっても、
行間に垣間見える隠された表現の絶妙さで、飽きさせない内容になっている。
作者の心の純粋さと人への心遣いが非常に伝わる、
素直で優しい言葉選びがとても心地よい。
作品の最後は、読み手の取り方によってはバッドエンドに映るかも知れないが、
どんな状況に今あったとしても、あくまでも生きている以上は、
決してまだエンディングを迎えてはないことを、柔らかくも強い意志で伝えてくれる。
これを機に、芥川賞や直木賞(またその候補)の作品も、
読んでみたくなった。
読書家を増やす大きな一石を投じた作品であるのは、間違いないであろう。
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